華彩紫庭真説 第三幕/薄墨淡朱の新しき絵画

2.6 修正(画像/書体/吹出)

離島に停泊する貨物船は、とある懐かしい友人を連れてきた。
謎の詩稿も、物語を道の方向へ導いていくようだ…

到着時刻表に書いてある時間通りに、離島の船着き場へ行こう。
客人たちの船は次の日の朝9時に到着するはずだ。

…次の日の朝まで待つ(7時~9)

船の到着時間になった。
離島の波止場に行こう。

そろそろ波止場に行く時間だぜ、行こう。
「到着時刻表」には、「船が止まる/一人」って書いてあるけど…
もしかして今日の客人は、一人だけってことなのか?

…離島の波止場に行く…

あっ!波止場の人影って万葉じゃないか?
 
…万葉と会話する…
 
波止場に立っているのは万葉だ。
まさか今日の客人は彼?
 
旅人にパイモン、元気にしていたでござるか。
容彩祭には道案内の者がいると聞いたが、まさかお主らであったとは。
 
えへへ。
オイラたちも、まさか万葉が、容彩祭の客人として稲妻に帰ってくるなんて思わなかったぞ。
 
実を言うと、招待状をもらった時は、拙者も不思議に思った。
しかし長く外を流離っていたゆえ、この機に故郷に帰り、故人を偲ぶのもいいと考えたのでござる。
 
万葉、さっき遠くからおまえを見かけたとき、なにか探してるみたいだったけど、なにかあったのか?
 
先程みなと共に船を降りた時、突然近くにとても軽い足音を聞いたのでござる。
あれは決して一般乗客の足音ではなかった。
しかし拙者が振り返った時、その者はすでに消えており…
残ったのは、桟橋から聞こえた「ポツン」という音のみ。
相手の姿は見えなかったが、足元に奇怪な紙切れを見つけたのでござる。
 
その紙って、もしかして詩が書かれていたか?
 
おや、どうしてそのことを?
 
ここ数日で起きたことを万葉に伝えた…

よもやそのようなことが起きていたとは。
 
>万葉、紙を見せてくれる?
うむ、もちろんでござるよ。

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『五歌仙容彩・赤人編』

ある謎の人物が残した紙切れ。
元々は万葉の懐に忍ばせるつもりだったもののようだが、気配が万葉にばれてしまい、慌てて地画に捨てて逃げてしまった。
紙には、『五歌仙容彩・赤人編』という詩が書かれている。

『五歌仙容彩・赤人編』

五歌仙容彩・赤人編
かねてより 世の覚え良く 名を立ちて
熱き心に 大志抱きぬ
新しく 詠む歌綴る 紙屋紙
朱印残して 名を轟かす
然れども 歌奉る こぞの会
古人の歌を 掠みにけりな
盗作し 上敗きぬ 咎により
侘しき荒野 追放たれぬ
人の世は なべて無常 移りける
五色の光も 消え失せにけり

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このまえ見た葵の翁の詩では、最後に「赤人」のことが書いあったけと…
やっぱり今回のは赤人についての物語みたいだな。
えっと、つまり――
赤人は赤色の印章を使うのが好きだったから、この雅号になった。
だけど、盗作行為が将軍にバレてしまって追放された…
なんて言うか、今回の物語はなんだか不吉だな。
 
>今までのも良かったとは言えないけどね…
拙者は別に良くない物語だとは思わないでござるよ。
拙者もかつては幕府の指名手配人であった。
赤人と大して変わらぬ。
 
この物語の赤人は悪いことをやったんだから、将軍に追放されたのは自業自得だ。
万葉とは全然違うぞ。
おまえはどう思うんだ?
 
>物語に出てきた「印章」…
>行秋の助けになるかも?
うむ。
先程、署名を書くのが遅いことを悩んでいる友人がいると話していたが…
璃月と稲妻においては、確かに「印章は署名に相当する」と言われている。
これは良い方法になるやもしれぬな。
船で海を渡っていた頃、暇つぶしに彫刻などをしていたでござる。
もしも印章を作るのであれば、拙者も力を貸せるであろう。
 
おお、やったな!
じゃあ早速、アルベドに相談しに行こうぜ。

新たな五歌仙物語は行秋を窮地から救ってくれるかもしれない。
このことについて、アルベドと相談しよう。

 
五歌仙広場に行ってアルベドを探す…
 
アルベド、行秋を手伝う方法を見つけだぞ!
 
先程の話をアルベドに伝えた。
 
やはり五歌仙の物語はまた現れたか…
そんな方法まで一緒とは。
印章…ふむ、そうだね…
確かに効率の高そうな方法だね。
それなら、行秋は筆跡の問題に悩まなくて済む。
しかし
 
>「しかし」?
>何か問題でも?
行秋は以前、すでにサインを読者に公開したことがある。
もし今回の新刊で印章を使えば、誠意が足りないと思われてしまうんじゃないかな。
ボクにもう一つ、考えがある。
もちろん印章もそのうちの一部だ。
今から烏有亭へ向かい、みんなと相談してみよう
 
アルベドは行秋を助ける方法に心当たりがあるようだ。
彼と一緒に烏有亭に行き、行秋を探そう。

 
烏有亭に向かう…
 
行秋と会話する…

 
平山
さあ、頑張ってください、枕玉先生!
今日書かれた字は目まぐるしい進歩を遂げています。
きっと昨日の特訓が効いたんですよ!
 
うぅ…
だめだ、もう腕が上がらない…
こうなることが分かっていれば、今までも書道の授業で小説を読んだりしなかったのに…
 
平山
先ほど10分も休憩したところですよ、もう少し頑張ってください!
 
小野寺
主任…
さすが我々の中で最も恐ろしい原稿催促をするお方。
 
村田
ええ、道理で八重様は面倒な作者に対して、いつも最後には主任を出向かせるのね…
 
恐ろしいぜ…
ちょっと見ない間に、行秋がまるで魂の抜け殻みたいな感じになっちゃってるぞ…
 
編集主任、実は先程いい方法を見つけたんだ。
みんなが直面しているこの苦境から、抜け出せるかもしれない。
璃月と稲妻では印章が広く使われていて、一般的にサインと同等のものとして扱われる。
この考えを応用すれば、サインをより簡単にすることができるはずだ。
もちろん、印章だけでは不十分だ。
だから、二つの要素でサインを構成するのはどうだい。
まずは個人の印章、これは枕玉先生のサインを模型にして作る。
同時に、ボクが枕玉先生に美しくかつ書きやすいものをデザインする。
先生は、それぞれの小説にそのデザインを書くだけでいい。
 
平山
そうですね…
ええ、この方法なら問題ないでしょう!
作者の直筆も入っていますし、見た目も間違いなく良いものになりそうです。
 
本当か?
つまり、僕は助かったのか…?
 
小野寺
主任、思ったんですが、以前現場でのサイン販売を諦めたのって、作家先生のサインに時間がかかってしまうことを考慮したからですよね。
ですがこの形でのサインなら、現場でサイン販売ができるんじゃないでしょうか。
それに、すべての作家先生がこの形を採用すれば、枕玉先生のサインだけが浮いてしまうという事態も防げるはずです。
 
ああ。
キミたちさえよければ、ボクも喜んで他の作家先生にサインをデザインしよう。
 
印章の彫刻は、拙者に任せるでござる。
 
平山
それでは今から、新刊即売会に出席される他の二名の作家先生に、連絡して参ります。
 
暫くすると、二名の作家がやって来た…
 
聡美(作家)
白亜先生にサインを作っていただけるなんて、光栄です。

勘解由小路家健三郎(娯楽小説家)
俺の筆名は複雑だから、サイン販売には向かなかったんだ。
これでやっと夢が叶う!
 
よかった、みんなこの案に賛同してくれたみたいだな。
 
平山
何日にも渡って、枕玉先生にはご苦労をお掛けしてしまい、本当に申し訳ございません。
どうぞごゆっくりお休みになってください。
後の事は、我々にお任せを。
すでにサインの終わった小説については、今後八重堂のイベントで、特別特典として使わせていただきますね。
 
小野寺
ふぅ…
これでやっと…解決ですね!
 
みんなのおかげで、僕も小野寺さんも苦境から抜け出すことができたよ。
 
えへへ、やっと自由になれたな。
外に行って新鮮な空気ても吸ってこいよ。
 
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平山
小野寺さん、後で即売会の変更を八重様に報告してきてください。
この案なら、きっと八重様も気に入ってくださいます。
あなたは頭の回転が速い。
あとはもう少し落ち着いて行動を取れるようになれば、きっと将来は大事を成せるでしょう。
 
小野寺
ありがとうございます、主任。
 
村田
これが俗に言う「災い転じて福となす」ってことかな?
新刊即売会が「サイン即売会」になるなんて、読者の人たちもきっと喜ぶよ。
 
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アルベドの提案したやり方で、行秋と小野寺は危機的状況から抜け出せそうだ。
みんなで烏有亭をあとにしよう。
 
烏有亭を出る…
 
まだ時間があるけど、これからどうするんだ?
 
皆さん、ここにいらしたのですね。
 
あれ、綾華と吟遊野郎じゃないか…
なんでおまえたちが一緒にいるんだ?
 
実は先ほど、容彩祭会場で間かれる生け花稽古場の手配をしていたのですが、花器から奇妙な紙切れを見つけたのです。
そのとき、こちらの吟遊詩人の方がそばにいらっしゃって。
ここ数日、似たようなものを他にも見つけているのだと聞き、二人で貴方がたを探していたのです。
でもこのお嬢さんが見つけた紙切れは、ボクたちが前に見つけたものと、ちょっと違うんだよね。

こちらです、ご覧ください。
 
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『五歌仙容彩・墨染編』

綾華が容彩祭会場のフラワースタンドから見つけた紙切れ。
しかし、紙には一言しか書かれていない。
 
『五歌仙容彩・墨染編』
 
五歌仙容彩・墨染編
ゆく水よ 沈めよ沈め たとうがみ
あらふ白波 正をあからむ
 
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今までのは詩の長さもみんな同じくらいだったのに、今度のは二言で終わってるぞ。
 
短い二言だけど、タイトルの横に書かれている訳でもなければ、紙の真ん中に書かれているという訳でもない。
この字の配置はまるで、この二言以外に、紙にはまだ他の内容があると告げているようだね。
 
この詩を言葉通りに解釈すると、「紙を水に入れれば、真実が自ずと浮かび上がる」となる。
それで一つ思い出したんだけど…
僕の家には古代の不思議議な話をまとめた古い書籍があるんだ。
その本によると、水に触れると現れ、乾くと消える特殊な墨汁があるらしい。
 
じゃあ、試してみる?
ちょうどこの近くに池があるみたいだよ。
 
新しく手に入れた五歌仙物語は、紙を水の中に入れるよう、ヒントを与えてくれたようだ。
池のところに行って試してみよう。
 
池の近くに行く…
 
紙切れをおそるおそる水の中に入れた…
 
おお、見ろ!
紙に文字がたくさん浮かんできたぞ!
なにが書かれてるか見てみようぜ!
 
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『五歌仙容彩・墨染編』
綾華が容彩祭会場のフラワースタンドで見つけた紙切れ。
水に浸すと、『五歌仙容彩・墨染編』の完全な詩が浮かび上がってきた。

『五歌仙容彩・墨染編』
 
五歌仙容彩・墨染編
皆人の なべて閲する 赤人の
歌集の作に み朱印みざる
ゆく水よ 沈めよ沈め たとうがみ
あらふ白波 正をあからむ
あはれなる 歌はいづれも えながせず
掠むとおぼゆは あさくも見ゆる
浮かばぬか 葵の翁 かいまみて
友を悼みて 詠みしそへうた
波風の 止まざるままに 日きにけり
主上御覧ず 五色の歌集…
 
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えっと…
墨染が赤人の歌集を手に入れ、歌集を小川に浸した。
すると、盗作だと言われていた歌の筆跡が溶け出していった…
ん?なんでだ?
 
印刷技術がまだ発達していなかった過去の時代では、手書きの文字は湿気によって簡単に滲んでしまうものでした。
ですので文字を長く保つため、特殊な墨汁で書くか、書いた後に防水の塗料を塗っていたんです。
特製の墨汁は作るのが大変でしたし、塗料のほうも楽な方法ではありませんでした。
それでも、赤人の歌集は将軍様へ献上するための重要なものですから、きっと二つの方法のうちどちらかを使っていたのでしょう。
しかし、その盗作だと言われていた歌には赤人の印章が無かったただけでなく、水にさらされた時の状態も、もともと紙にあった他の文字とは大きく異なっていました。
 
>この歌は赤人のものじゃなかった。
>誰かが後から付け足した。
じゃあ、赤人は悪いことをしてないのに、誰かに陥れられたってことか!
 
ああ。
これこそが、黒染の物語がボクたちに伝えたかった真実だろうね。
哀しい物語だったけど、おかげで「赤人」と「墨染」の絵の内容が決まった。
万葉、それに綾華。
モデルになってくれる気はないかい?
 
もちろん構いません。
 
拙者もよいでござるよ。
 
よし!
じゃあこれで、一気に二枚の肖像画が描けるな!
 
うん、それに四つの物語が集まった。
五歌仙の物語も、これでやっと完成だね。
 
今は昔 稲妻に五人の歌人ありけり
世の人は――五歌仙 と
或る年 翠光が天守閣に赴きて 歌集を殿様に棒ぐ
されど 葵の翁による歌の 一枚破れたる咎めを受けにけり
翠光は非をめて曰く 「昨晚 大酒を飲みき」
酔いし翠光にじり寄るは 
或る影なりけり
その影こそ 葵の翁
すべては素性の知れぬ者の目論見
脅されし葵の翁は やむなく歌の一枚を奪ひぬ
如何にぞや奪はせしむか?
ただ知るはその歌が 友の「赤人」を詠むることのみ
赤人は かつて五歌仙の一人
名の「赤」は 歌に朱印を残すことより来たり
ある年参らせし歌に 他者より盗んだものあり
赤人の咎により追放され 歌仙五人は 四人になりぬ

墨染は赤人の歌集に目を通し 盗作にみ朱印なしと知る
赤人の歌集を川に浸せば 盗作とされし歌の墨は 波に流れけり

通りがかりし葵の翁 古き友思ひ出し
目に移りしことを歌に詠む
後に翠光が歌を捧げしとき あの波風を 立てり

程なくして、アルベドは二枚の絵を完成させた…
 
うーん…
ん?うぅ…
 
>パイモン、どうしたの?
>何だか悩んでるみたいだね。
おう…オイラ、五歌仙物語を読んでから、ずっと気になってたことがあるんだ。
五歌仙の物語って、もう一人「黒主」ってやつがいただろ?
でも五歌仙の物語は、そいつが一切出てない状態で終わったってことだよな?
 
ぷっ…
あははっ、まさか、君は気づいてなかったの?
 
おいっ、吟遊野郎!
笑い過ぎだぞっ!
オイラがなにに気づいてないって言うんだ?
 
パイモン、実は今までの四つの詩に、黒主の物語はすでに含まれていたんだ。
 
えっ、そうなのか?
 
この物語の要は、墨染が歌集を洗うのを見た後、葵の翁が詠んだ歌にあるんだよ。
少女が小川で赤人の歌集を洗うシーンは、普通の人からしたらまったく訳の分からない光景さ。
それは葵の翁にとっても同じことで、彼は墨染の行動を理解できなかった。
その情景を見ても、ただ昔の友人を思い出しただけ。
でも、赤人を陥れた犯人からすれば、話は違ってくるだろう?
彼だけは不安を感じていた。
もしもこの歌が将軍の目に触れれば、赤人盗作事件の真相がバレてしまうかもしれない。
そうなったら、身の破滅だからね。
だから彼は葵の翁を脅して、歌を破り捨てるっていう強硬手段に出たのさ。
 
じゃあ、葵の翁を脅したやつが、赤人を陥れた犯人なのか!
 
>その犯人こそ「黒主」。
えっ、そいつが「黒主」だって!?
 
そう、この詩集は四篇しかないけど、ちゃんと「五歌仙」の物語について語っているんだ。
詩に出てくる将軍はどう考えても歌仙じゃないし、残りの登場人物を考えたら、この正体不明の謎の人物しかいないだろ?
 
おまえたちに説明されて、オイラもやっとわかったぞ。
 
だけど…ボクは今、別のことについて考えている。
五歌仙の物語は、ボクたちの周囲で発生したことと、多かれ少なかれ関係があっただろう。
だったら現実においても、「黒主」のような存在がいるんじゃないかな…
 
現実の…「黒主」?
 
そういえば、万葉がさっき何か思いついた様子だったけど。
 
万葉?
確かに、さっきからずっとだんまりだよな。
万葉に聞いてみようぜ。
 
万葉は先ほどから何も言わない。
もしかして、何か思い出した?
 
万葉と会話する…
 
万葉、どうかしたのか?
さっきからずっと、この真っ白な画布の前に立ってるけど…
それに、顔色も悪いみたいだぞ。
 
すまない。
これはボクたちの勝手な予測だけど、もしかして五歌仙物語が、キミに何か思い起こさせたかい?
 
確かに先ほど、いくつか思い当たる節があったが、拙者の家系にある古い話のことなのでござる。
無論、みなに話してもよいが、これ以上みなを煩わせたくはない。
 
万葉、オイラたちはおまえの友達なんだ。
迷惑なんてことないから気にするな。
 
楓原さん、失礼ですが、そのことはもしかして「雷電五箇伝」と関係することでしょうか?
 
「雷電五箇伝」?
なんだそれ?
 
どうやら批者も綾華殿も、同じことを考えていたようでござるな。
これは社奉行とも関係のあること。
綾華殿、皆に話してもよいだろうか?
ここにいらっしゃるのは、皆さん信頼できる方々です。
お話しするのは構いません。
ですが、説明が難しいことですので、まずは私から「雷電五箇伝」についてお話ししましょう。
皆さんも知っての通り、社奉行は祭祀活動や文化の伝承を管理しています。
その中においては、稲妻の「鍛造技法」も、重要なものとなっております。
「雷電五箇伝」とは、かつて稲妻の最上位にあった五つの鍛造流派なのです。
この五つの家系は刀鍛冶の名家でありながら、社奉行においても重要な官職についていました。
しかし残念ながら、雷電五箇伝において、現在に至って受け継がれているのは「天目流』のみ。
そして「一心伝」は、技法は失われてしまったものの、その末裔はまだ存続しております。
楓原家こそが、「一心」流派の末裔なのです。
 
万葉の家が、身分の高い武家だって言うのは知ってたけど…
まさか社奉行や刀鍛冶とも関係してたなんてな。
 
うむ、されど運か昔のことに過ぎぬ。
「一心伝」は拙者の曽祖父の代には、すでに没落していた。
曽祖父の無為無策に、祖父は不満を抱えていたようでござる。
家業を再興させる方法を探るべく、若い頃にテイワットを旅したそうだが、それも失敗に終わった…
そして拙者の代には、唯一残っていた屋敷までもがなくなってしまったのでござる。
 
以前お兄様から聞いたことがございます。
「雷電五箇伝」の没落はとても早く、わずか数十年のうちに、そのうちの三家が数々の不幸に見舞われ、やがて完全に姿を消したそうです。
このように言う者もございます――
あれらの不幸はすべて、「雷電五箇伝」を断絶するために、誰かが裏で操作していたのだと…
とは言え「雷電五箇伝」が完全に消失したと言う訳ではありませんでしたので、このような意見も結局はただの噂とされました。
 
うむ、拙者もずっとそのように思っていた。
しかし拙者は、曽祖父が若い頃に経験した、ある「大事」を知っているでござる。
その一件は、拙者たち楓原一族だけでなく、神里家の社奉行における地位さえも揺るがしかねぬものであった。
五歌仙物語は、まるであの一件の真相を暗示しているように思えたのでござる。
 
万葉、あの一件って…
当時なにが起きたんだよ?
 
あの一件の確証を得るためには、まだ詳しく調査する必要がある。
明日の昼、またここで落ち合うのはどうであろうか?
そのとき、描者の知るすべてをお主らに話そう。