沈秋拾剣録

書籍


■一
逆転した星海の中央、地下で何百光年も広がり続けてきた戦場…
壮大すぎる展開の新感覚侠客物語が、今始まる!

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■二
逆転した星海の中央、神話のような大戦も、「岸」にいる人間にとっては静寂の中のさざ波に過ぎない…
だが、戦場に突入した戦士にとって、これは人生の全てなのだ。

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■三
逆転した星海、そこには砕け散った群島がある。
孤立したそれぞれの島には独自の歴史と侠客、そして様々な事象が存在する…
駿河幕府侠客譚、開幕!

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■四
「山賊とは戦争の子供」
かつて、稲妻にはこのような言葉があった…
…乱世においては、粮米の刈り入れもまた戦!
『沈秋拾剣録』の初太刀が今、振り下ろされる!

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■五
逆転した星海の中、散らばった島の一角にある、書きつづる価値も無い小さな村で、流れ着いた浪人と農民が手をとり合い、山賊との戦に備えていた。

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■六
「星海での大戦――
その本質は、不毛の惑星で平民たちが行った十年前の戦いと何ら変わりないものであった…」
まもなく、男の名前は銀河に知れ渡ることになるだろう。
あの帝国の皇帝のように。

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■第1巻
「けれど、シェール陛下の野望が実現したとして、一体誰が何を得られると言うのでしょうか」
軍務尚書であるファランギースは、窓の外に広がる星の海を眺めて言った。
銀河と星々が彼女の顔を、蒼白く照らす。
その白い輝きが、ゆっくりと髪を流れ落ちた。
初めてこの舷窓から星を一望した時のことを思い出す。
しかし、かつて感じた畏敬の念は、もはや思い出せない。
地表から数百光年。
遠い故郷の姿は、彼女が夢に見る度に記憶の中で歪み、色褪せてしまった。
「無礼を承知で申し上げます、親王殿下。
しかし、この戦争は長すぎました。
私たちは数多の星区を駆け、謀略と策略を重ねて幾千万の命を消し、未知だった星区を一つずつ配下に加えてきました。
すべては、シェール陛下の夢のために。
けれど、陛下の夢見た幻は、私たちに何をもたらしたでしょうか?
ますます多くの不幸が起こり、敵も増え続けています。
銀河中に溢れるそれらは、いつの日か我々を呑み込むことでしょう……」
「兄上の帝国は永遠の国になるわ。
そこには恐怖も貧困もなく、人々の幸福が少数の手に握られることもなければ、誰かが誰かより地位が高くなるということもない。
無能の者を罪と呼ぶことさえなくなるでしょう。
故に…
…この理想を理解できぬ敵は、排除されて然るべきなのよ」
ゴパータ親王はかぶりを振って、穏やかに、しかし冷たく語った。
星区間対遊撃戦争が奪ったのは、彼女の片目と片腕だけではなかったらしい。
目の前の彼女は、今やファランギースが知る明るい少女ではなかった。
「私は兄上の決断を信じています。
あの人は決して私利私欲で動いたりしない。
だから、たとえあなたでも、これ以上人心を揺るがす言葉を言えば許さないわ」

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■第2巻
このような綿密な防御では、ヤズタ級戦艦からなる大艦隊を持ってしても、有効打を与えられまい。
帝国の技術に慢心するゴルダファリード大将は、反乱軍がすぐ目の前に近づいてきていることに気づかなかった。
しかしゴパータ親王自ら設計し、シェール陛下から「アーヌシャルマン」と名付けられたこの強大な星海要塞も、反乱軍の前では今や、脆弱な卵であった。
高速艇ラハーシャを駆って、ペシータヌは入り組んだ排熱ダクトをすり抜けていく。
噴出される有毒ガスや元素の雲を避けながら、自動追尾で迎撃してくる機械たちを振り切ると、高速艇のあまりの速さに彼の目と耳は充血し、眩暈がした。
「時が来た」
ペシータ又は動力システムのエネルギー核が少しずつその姿を露わにするのを見ながら、こう思った。
「時間だ」
ゴルダファリード大将は、星の軌道上にきらめく光の塊を眺めながら、こう思った。
そして、彼女は惑星への無差別攻撃命令を下した。
時を同じくして、ペシータヌも要塞の核に致命的な攻撃を仕掛け――

「地団駄を踏むゴパータ親王/親王殿下を見てみたいものだ……」
その瞬間、奇しくも二人の考えは同じだった。

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■第3巻
――十年前――
――遥か、二十五光年――

駿河幕府の統治下で、国中の民が貧しい生活に喘いでいた。
この頃の駿河幕府を治めていたのは、今川征夷大将軍氏真。
さらに四年前、大将軍が紆余曲折の末に魔王『彈正忠』の首を取ったときが、恐怖の時代の幕開けだったのだ。
そのような時代、そのような国を、ある一人の剣豪が流浪していた。
彼こそ新九郎と呼ばれた侠客、備中九兵衛である。
その昔、備中九兵衛は浪人ではなかった。
大将軍の側近であり、兵法の指南役をしていたというのが、風に聞く噂である。
無実の罪を着せられた彼は、大将軍が人を信じぬ性格であったことから、やむなく幕府を逃げ出し、荒野を彷徨う羽目になったのだ。

今、新九郎は丘の上から遥か遠くを見渡している。
彼は一体、何を見ているのだろうか。
眼下に広がる田園か?
否。
彼方に聳える山々か?
否。
延々と続く道であろうか?
然り。
だが、それだけではない。

新九郎が望むものは、一体何だと言うのか……?
米を報酬として剣豪に依頼した農民たちは畏縮するあまり、誰も問うことができなかった。

答えは、沈黙の剣客のみぞ知る。

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■第4巻
「じきに秋。収穫の季節だな。」
斎藤鬼佐が言った。

忍者とは、戦乱の世において大名たちに仕えていた傭兵である。
戦によって生まれ、権力によって強くなった。
それは忍者の機。
戦の終わりとともに滅び、権力を失って崩れ去る。
これもまた忍者の宿命。

そしてついに、今川大将軍が国を統一した。
今の時代、用なしとなった忍者は殺されるか、兵となって再編されるか。
落ちぶれて、山賊に成り下がった者もいた。
斎藤鬼佐はそういう者であった。

「急ぐこたねえ。
村人たちに米を詰めてもらってからでいい」
米又左之助が言った。

山賊は、武道に疲れた侍や、死に直面した農民からなる。
彼らもまた戦争によって生まれ、狡猾さで肥大化し、大きくなったために跋扈する。
故に、戦争が終わって平和が戻った今、山賊の勢力は弱まる一方だった。

米又左之助は農民の生まれである。
四十代から山賊になったが、とんとん拍子に辺り一帯を牛耳る頭領となったのだ。
最も悪辣な賊は、最も虐げられた者であった。

「その後は、火をつけて一人残らず殺せ」

これが、乱世の残滓だ。

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■第5巻
浅田村は三日月型の地形をしている。
くぼ地に入るや否や、新九郎はそこに目をつけた。
十分な人数を集めて山の尾根で待ち伏せできれば、長旅で疲れた敵を簡単に向かい打てる。
村人の人数は山賊より多いから、包囲することも不可能ではないだろう。

だが問題は、山賊を谷に誘い込むために囮が必要なことだった。
長く乱世に苦しみ、今も幕府の重い徴税に苦しむ村人たちは、みな保身に慣れてしまっている。
そんな中、誰が大勢のために自分を差し出せるだろう。

それだけではない。
戦乱の世では火攻めが定石。
谷で火を起こせば、大きな打撃を与えられる。
しかし、自分が今率いているのは兵ではなく、村を守ろうとする農民たちだった。
自分たちの家や食糧を燃やすなんて……
気持ちはよくわかるが、徹底的に山賊を殲滅できなければ、待つのはさらなる報復だった。

新九郎は思い耽り、無言でその場に座り込んだ。

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■第6巻
「おそれながら艦長、さっき会議中に居眠りしていましたよね。」
「おっと、気付かれてたか。」
「背筋を伸ばしてはいましたが、そういうのはもう見慣れています。
艦長、武人の修行で得た成果をそんなところで使わないでください。
艦隊司令官様に知られたら、報告書だけでは済みませんよ。」
そうは言ったものの、マハスティーは分かっていた。
少なくとも当分の間、この上司に刃向かうほどの人物はこの艦隊に現れないことを。
連合艦隊司令部は、絶妙なバランスで保たれている。
彼の上司――
備中九兵衛、今は「すみまる」といういい加減な発音で呼れている新九郎は、中年の隊長であり、全勢力を篭絡しようとする人物。
そして、この状況を打破する可能性をもっとも持つ人物であった。
あの事件から、もう十年も経ったのか――
新九郎は心の中でそう思った。

浅田村での勝利は、あとから見れば新九郎が持つ軍事の才能、その片鱗を発揮させたに過ぎなかった。
しかし、当事者たちにとっては災いの始まりである。
そのような知謀に長けた人物を野放しにするなど、大将軍側はやはり看過できなかった。
その後すぐのことである。
新九郎は両目を刺され失明し、牢に入れられた。
今より五年前のこと、今川氏は相模出身の大名である多目氏率いる連合軍の遠征により、首を落とされた。
ようやく、この国の民は平和に暮らせるようになったのだ…
新九郎は獄中で、この話を新任の征夷大将の口から直々に聞いた。
平和で豊かに暮らす民、それは新九郎が見たこともない光景であった。
その見知らぬ将軍は、決して慈悲深い道徳的な人物ではない。
しかし、民の心を掴むために一般的な恩赦は必要な行為であった。
昔のことを思い出し、新九郎は心の中で思わず嘆いた。
今も昔も、結局自分は不本意ながら渦の中心にいることになるのだと。

「この国にとって我々は反逆者だ。
そして、この広大な宇宙の中でも、そうだ。」
将軍は地に腰を下ろしている新九郎を見ながら、淡々と言った。
「帝国の税金は、この宇宙の片隅にあるような、取るに取らない惑星が負担できる範疇を超えた。
そして君の才能も、銀河の中で開花するはずだ。」
「君の名と姓はすでにあの今川という悪党に奪われた。
しかし、そんな過去はもう捨てろ。
これからは『蝉丸』と呼ぶ。」

こうして過去を持たず、二度と広大な宇宙をその目で見ることができなくなった人間の前に、宇宙が広がったのである。